工芸 スクラッチモデル 高梨 廣孝




 
フルスクラッチモデルをつくる

One-off Full Scratch Built model by H.Takanashi / scale 1/9  


      
 
 昨年に続いて今年もバイクのスクラッチモデルを展示します。スクラッチモデルの制作を始めて、気がつけば30年が経ちました。当初から比べれば、技術的には多少の進歩があったかも知れませんが、一番の変化は道具類です。図面を作成したり、資料を整理したりする作業は、パソコンの活用によって大幅に時間が短縮されるようになりました。また、3Dプリンターの出現によって今までハンドメイドでは不可能であったタイヤの自作も可能になりました。金槌や糸鋸によるハンドメイドの時代から、次の時代に進みつつあることを強く感じる今日この頃です。今回展示するヤマハYA-1は、バイクには全く興味のない方でもヤマハOBなら是非とも記憶に留めておいて頂きたい製品の一つです。このモデルは、デザインを担当したGKインダストリアルデザイン研究所の創立60周年を記念して、昨年世田谷美術館で開催された展覧会のために制作したものです。



YAMAHA YA-1 1955

 
”赤とんぼ”のニックネームで親しまれているYA-1は、ヤマハ発動機の出発点である。日本楽器は、第2次世界大戦勃発とともに平和産業である楽器製造の道は閉ざされ、軍需産業に活路を見出すことになる。 かって手がけていた航空機のプロペラ製造に再び着手し、陸軍に対して高性能なプロペラを提供している。 敗戦によって日本楽器の軍需工場はGHQの命によって閉鎖される。 しかし、1951年に平和産業に利用することを条件に指定が解除される。 活用には様々な方向性が考えられたが、川上源一社長の決断でモーターサイクルの分野に進出することとなる。 美しいデザインと優れた性能は、先行したラ イバルメーカーに大きな衝撃を与えた。 デビュー直後に「富士登山レース」「浅間高原レース」のビッグイベントに圧勝し、「赤とんぼ」のニックネームとともに今でも語り継がれている。
 
 サドルの動作とスポーク張り  仮組み
 パーツ全体図  完成したフレーム 


 
 BMW R80 G/S Paris-Dakar 1985 (Germany)

世界で最も過酷なラリーと言われるパリダカール・ラリーは、1979年に始まる。 フランスの首都パリからスタートし、スペインのバルセロナを経由してアフリカ大陸に渡り、セネガルの首都ダカールまでおよそ12000kmを走ることで知られている。パリダカール・ラリーにおいて最も積極的にワークス活動を展開していたのがBMWである。 1985年までの7回のこのラリーにおいて4回の優勝を飾っている。 R80 G/S は、小さな巨人と称された天才的ライダー、ガストン・ライエのライディングにより、1984,85年に連続優勝を果たしている。 パリダカール・ラリーは、2009年より南米アルゼンチンの首都ブエノスアイレスからチリを回る周回コースに変更された。 コースが南米に移った理由は、アフリカ大陸が政治的に不安定となり、テロの標的にされる危険性が増したためである。  

 
 エンジンフィンの制作   組み上がったフラット・ツインエンジン
 
 エンジンの架装  完成した心臓部
 
Vincent Black Shadow Series C 1953 (United Kingdom)


第2次世界大戦前に、モーターサイクルの世界に君臨していたのは英国車であり、その頂点に立っていたのがヴィンセントである。 
Vツインエンジンの歴史をたどる時、モーターサイクル史上に輝かしい足跡を残したブリティッシュVツインを避けて通ることはでき
ない。とりわけ、ヴィンセントはその特筆すべき栄光を担ってきた。 レースでの活躍、スピード記録の達成など常に話題の中心にあり、バイクのロールスロイスとしてマニアの垂涎の的であった。ヴィンセントの歴史の中で、名車中の名車と言われているのが、黒く塗装されたエンジンを装備したブラック・シャドウ(黒い影)である。 モデルを制作するにあたっては、部品点数の多さ、複雑なエンジン、
フレームが無いことなどで最も困難を極めた1台である。
 
   
銅板によるフェンダーの絞り加工  エンジンブロックの制作 
 
フロント、リアー・フェンダーの組み立て   パーツ全体図
 


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